BibTeX用の文献データベース


昔は bib ファイル(BibTeX用のデータベース)は自分で作成するものでした。しかし、最近はネットから bib ファイルの情報を入手したり、文献データベースソフトから bib ファイルを作成できるようになりました。英語の論文なら、例えば

  • 雑誌の出版社のページ
  • Google Scholar
  • IDEAS(これは経済学系の論文のみみだと思いますが)
  • Cinii(ここは主に日本語の論文のデータベースですが、英語の論文のデータもあります)
  • Mendeley(文献管理ソフトのMendeleyから出力)

などから bib データが入手できます。

このようにネット等から入手可能ですので、自分で手作業でデータベースを作成するという面倒な作業をする必要がなくなり非常に楽になりました。 それはいいのですが、現状では同じ文献であっても、どこから入手するか(つまり、ソース)によって含まれる情報が異なることが多いので少し困ります。

以下の論文を例にとって、説明します。

Shiro Takeda (2007) "The double dividend from carbon regulations in Japan", Journal of the Japanese and International Economies, 21(3), pp. 336-364.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jjie.2006.01.002

上記の論文の場合、以下の5つのソースから bib データを入手できます。

  • 雑誌の出版社(Elsevier)のページ
  • Google Scholar
  • IDEAS
  • Cinii
  • Mendeley

実際、入手できるデータの内容を以下に掲載します。

■ 出版社(Elsevier)の論文のページ

まず、出版社(Elsevier)の論文のページ(↓のページ)から取得できる bib データからダウンロードできる情報

@article{TAKEDA2007336,
  title        = "The double dividend from carbon regulations in Japan",
  journal      = "Journal of the Japanese and International Economies",
  volume       = "21",
  number       = "3",
  pages        = "336 - 364",
  year         = "2007",
  issn         = "0889-1583",
  doi          = "https://doi.org/10.1016/j.jjie.2006.01.002",
  url          =
                  "http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0889158306000128",
  author       = "Shiro Takeda",
  keywords     = "The double dividend, Carbon regulation, CGE analysis, Japan",
  abstract     = "Using a multisector dynamic CGE model, this paper examines the
                  double dividend from carbon regulations in Japan. The model
                  has 27 sectors and goods (eight goods generate carbon
                  emissions) and covers 100 years (from 1995 to 2095). When
                  carbon regulations are introduced, pre-existing taxes are
                  reduced, keeping government's revenue constant. Our main
                  findings are summarized as follows. First, the weak double
                  dividend arises in all scenarios. This means that by using
                  revenues from carbon tax to finance reductions in pre-existing
                  distortionary taxes, one can achieve cost savings relative to
                  the case where the tax revenues are returned to households in
                  lump-sum fashion. Second, the strong double dividend does not
                  arise from reductions in labor and consumption taxes, but it
                  does from reductions in capital tax. The second result is
                  attributable to the nature of the pre-existing tax system in
                  Japan where capital taxes are more distortionary than labor
                  and consumption taxes. J. Japanese Int. Economies21 (3) (2007)
                  336–364."
}

■ Google Scholar

次は、Google Scholarから取得できる bib データ → これ

@article{takeda2007double,
  title        = {The double dividend from carbon regulations in Japan},
  author       = {Takeda, Shiro},
  journal      = {Journal of the Japanese and International Economies},
  volume       = {21},
  number       = {3},
  pages        = {336--364},
  year         = {2007},
  publisher    = {Elsevier}
}

■ IDEASのデータ

IDEASから取得できる bib データ → このページから取得できるもの

@Article{RePEc:eee:jjieco:v:21:y:2007:i:3:p:336-364,
  author       = {Takeda, Shiro},
  title        = {{The double dividend from carbon regulations in Japan}},
  journal      = {Journal of the Japanese and International Economies},
  year         = 2007,
  volume       = {21},
  number       = {3},
  pages        = {336-364},
  month        = {September},
  keywords     = {},
  doi          = {},
  abstract     = {No abstract is available for this item.},
  url          = {https://ideas.repec.org/a/eee/jjieco/v21y2007i3p336-364.html}
}

■ cinnのデータ

ciniiから取得できる bib データ → このページから取得できるもの。

@article{10029652176,
  author       = "TAKEDA, S.",
  title        = "The Double Dividend from Carbon Regulations in Japan",
  journal      = "Journal of the Japanese and International Economies",
  ISSN         = "",
  publisher    = "",
  year         = "2007",
  month        = "",
  volume       = "21",
  number       = "3",
  pages        = "336-364",
  URL          = "https://ci.nii.ac.jp/naid/10029652176/",
  DOI          = "",
}

■ Mendeley

Mendeleyで文献を管理していて、それをbibデータとして出力して得られるもの。

@article{Takeda-2007-DoubleDividendfrom,
  abstract     = {Using a multisector dynamic CGE model, this paper examines the
                  double dividend from carbon regulations in Japan. The model
                  has 27 sectors and goods (eight goods generate carbon
                  emissions) and covers 100 years (from 1995 to 2095). When
                  carbon regulations are introduced, pre-existing taxes are
                  reduced, keeping government's revenue constant. Our main
                  findings are summarized as follows. First, the weak double
                  dividend arises in all scenarios. This means that by using
                  revenues from carbon tax to finance reductions in pre-existing
                  distortionary taxes, one can achieve cost savings relative to
                  the case where the tax revenues are returned to households in
                  lump-sum fashion. Second, the strong double dividend does not
                  arise from reductions in labor and consumption taxes, but it
                  does from reductions in capital tax. The second result is
                  attributable to the nature of the pre-existing tax system in
                  Japan where capital taxes are more distortionary than labor
                  and consumption taxes.},
  author       = {Takeda, Shiro},
  doi          = {10.1016/j.jjie.2006.01.002},
  issn         = {08891583},
  journal      = {Journal of the Japanese and International Economies},
  keywords     = {CGE,Double dividend,Japan,carbon tax,dynamic C},
  month        = {sep},
  number       = {3},
  pages        = {336--364},
  title        = {{The Double Dividend from Carbon Regulations in Japan}},
  url          = {http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0889158306000128},
  volume       = {21},
  year         = {2007}
}

5つのソースからのデータの違い

同じ文献であっても、ソースによってデータが異なることがわかると思います。どこが異なるか簡単にまとめます。

[注]

以下では、主に「論文で引用した際に参考文献(reference)に掲載するための情報」という観点で考えます。純粋に文献の情報のデータとして考える場合にはまた事情が異なると思います。

項目の違い
  • そもそもソースによって、提供されている項目とされていない項目に違いがあります。
  • 例えば、abstract, doi, url, keywords, publisher 等のフィールドはソースによって提供されて いたりいなかったりします。
引用のためのキーワード
  • ソースが異なると引用のためのキーワードが全く違います。
  • BibTeXで引用するときには、このキーワードを用いて引用しますから、ソースが異なるとTeXのファイルの方も変更が必要になります。
author
  • ciniiでは著者の姓が全て大文字になっています。
  • 名前の姓の部分を大文字で表現することはよくありますが、論文で引用するとき、参考文献に掲載するときにはそういうものはあまり見ないので、全て大文字ではなく、普通の形式がいいと思いますが。
  • ただ、欧米人以外では大文字で示さないと、どちらが姓かわからなくなることがあるのかもしれません。
title
  • 「{」、「}」で囲んである場合とない場合があります。
  • 括弧で囲んである場合、BibTeX の処理の際に全く変更(文字列の大文字化、小文字化等)がおこなわれなくなります。
  • IDEAS & Mendeley → 囲みあり
  • その他 → 囲みなし
DOI
  • 最近は DOI 情報を含んでいるものが多いですし、実際、reference での情報において最も重要な情報ではないかと思います。ですので、DOIが提供されていないと困ります。
  • Elsevier -> https://doi.org/10.1016/j.jjie.2006.01.002
  • Mendeley -> 10.1016/j.jjie.2006.01.002
  • その他 → 提供なし
  • Elsevier と Mendeley では提供されていますが、その形式が異なります。Elsevier では https://doi.org/ の部分も含まれます。この二つ以外は DOI 情報の提供はなしです。
ページ番号
  • これはどのソースでも提供されていますが、形式が異なります。
  • Elsevier → "336 – 364",
  • IDEAS と cinii → "336-364",
  • Google と Mendeley → "336–364"
  • 形式が異なると、BibTeX で処理する際に統一的な処理が難しくなってしまいます。
ISSN
  • ISSN(International Standard Serial Number、国際標準逐次刊行物番号)は雑誌を識別するための番号だそうです。reference に情報として掲載されているのは見たことがありません。ジャーナル名の情報があればそれですみますので、特に必要ないのですが、もしかしたら必要なときがあるのかもしれません。
  • Elsevier → "0889-1583"
  • Mendeley → "08891583"
  • 他 → 提供なし
URL
  • Elsevier → http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0889158306000128
  • IDEAS → https://ideas.repec.org/a/eee/jjieco/v21y2007i3p336-364.html
  • cinii → https://ci.nii.ac.jp/naid/10029652176/
  • Mendeley → http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0889158306000128
  • Google → なし
  • Google 以外は提供しています。しかし、ソースによって情報が異なります。そもそも出版されている論文については URL よりは DOI を提供した方が望ましく、むしろ URL は変更される可能性が高いということで情報を載せない方がいいのではないかと思います。
  • DOI が存在する文献については、意味のない(むしろ有害な?)情報だと思います。
その他
  • abstract, keyword, publisher 等のフィールドについても出所によって提供されて いたりいなかったりします。

どの情報をreference に表示するかは、雑誌によって微妙に異なりますが、ある程度は共通した方針があると思います。微妙な違いとは、例えば、雑誌によっては journal article の巻(volume)は掲載するが、号(number or issue)は掲載しないとしているような違いです。この程度の違いでしたらどっちでもいいかと思います。

journal article については最近 DOI 情報を含んでいる文献データが多いと思います。DOI は論文の掲載場所を一意に表す役割をはたしているので、最も重要な情報ではないかと思います。仮に他の情報が掲載されていないくても、DOI さえわかれば他の情報は全て DOI から探せますので。上に挙げたソースでは DOI を提供しているものとしていないものがありますが、もし文献情報を提供するのなら(journal articleについては)必ず DOI は提供してもらいたいと思います。

BibTeX における処理という観点からは、ソースによって提供されている情報が変わることはあまり問題にはなりません。というのは、情報が提供されていれば表示し、されていない場合には表示しなければいいだけですから。

BibTeX の処理で問題になるのは、ソースにより提供されている情報の形式が異なる点です。例えば、DOI は Elsevier が提供する形式と Mendeley が提供する形式で異なります。Mendeley形式のDOIの情報をElsevier形式を前提としてBibTeXで処理すると間違った DOI の表記になってしまいます。BibTeXでの処理方法(つまり、bstファイルの作成)を考えるときには、文献の情報がある決まった形の形式で提供されていることを前提としますので、複数の形式があるのは困ります。

ページ番号の情報も、ソースによって形式が異なっているので、同じことが言えます。

また、できれば BibTeX の引用用のキーワードは統一されていると便利ですが、データベースを作成しているところがばらばらに独自の方法でつけているので、統一は難しいですね。

文献のデータベースがネットで提供されるようになり、便利にはなりましたが、改善してくれるといい点がまだまだありますね。

MPSGEについての文書の改訂


「このページ」に GAMSの MPSGE の利用方法について説明した文書を置いています。まだ書きかけでずっとほったらかしにしていたのですが、久しぶりに内容を追加しました。

モデルの例として、1) 排出権取引による排出規制のモデル、2) 炭素税による排出規制のモデルの二つの説明とプログラムを追加しています。ついでに、二重の配当の分析もおこなっています。

データは数値例にすぎませんし、モデルも実際のCGE分析で利用するものよりも非常に単純化されたものですが、私が自分の研究で利用しているCGEモデルも、排出規制の部分の要点はこのサンプルのプログラムとほとんど変わりません。

同じ排出規制であっても、多くの人は排出権取引よりも炭素税の方がよりオーソドックスで単純なものと考えているのではないでしょうか。やはり税と比較し、排出権取引はあまりなじみがない規制方法ですから。

しかし、MPSGE でのモデル化という観点ではむしろ排出権取引の方が単純で、炭素税はすこしトリッキーな方法を用いないと MPSGE では扱えないです。その理由は「炭素税は一種の従量税」であるのに対し、MPSGEで直接扱えるのは「従価税」だけだからです。ただ、「内生的な従価税率(補助変数)+$constraint命令」を上手く利用することで、MPSGEでも炭素税を扱えます。上のサンプルのコードでもその方法を使っています。

さらに言えば、上のサンプルのモデルでは「排出権取引と炭素税の同値性」が成り立つので、極端な話、排出権取引のモデルで解いた結果を、炭素税という政策によって求めた結果と説明しても全然問題ではないのですが。

MPSGEは非常に便利なツールですが、その欠点として、表現できるCGEモデルに制約があり、どのようなモデルでも自由にMPSGEで記述できるというわけではないということがあります。その点についての説明もいずれ追加したいと思います。

PHP5.6→PHP7.3へのアップグレード


このブログやホームページはさくらインターネットでスペースを借りて作成しています。ホームページにはmodx、ブログにはWordPressを利用しています。どちらもPHPを利用していますが、これまでずっとPHP5.6を利用していました。PHP5.6はずっと前にサポートも終了し、かなり古いので、PHP7.3を利用するように設定を変更しました。

変更したところ、ホームページの一部のページが表示されなくなりました。調べてみると、それはmodxのPage TOC generatorという目次を作成するプラグインを利用しているページでした。どうもPHPが上手く動作していないようだったので、PHPのログファイル(php-error.log)を見たところ、

 PHP Fatal
error: Uncaught Error: Call to undefined function ereg() 

というエラーが出ていました。Page TOCD generatorで利用されているereg という関数がないようです。新しいPHPではこの関数はなくなってしまったようです。

調べたところ、新しいPHPでは「ereg関数」の代わりに「preg_match関数」を使うということだったので、

ereg("<h1", $header_tags[$i]))

というようなコードを

preg_ereg("/<h1/", $header_tags[$i]))

と置き換えたところ正常に動作するようになりました。

私にはPHPについてのまともと知識を持っていないので、アップデートもなかなか大変です。

今のさくらインターネットでのホームページを起ち上げて10年以上、ずっとmodxを利用してきました。modxに特別不満があるわけではないですが、modxはやはりある程度スキルがない人じゃないと適切に管理していくことが難しいような気がしますので、何か別のCMSに変更しようかなと思っています。それか、もう自分でCMSを導入するのはやめて、Google Siteなどのサービスに移行したほうがいいかもと思っています。

別のCMSに変えるとしたらやはりWordPressでしょうか。WordPressは元々はブログ用のCMSだと思いますが、今はWordPressでホームページを作成している人が非常に多いと思います。日本語での情報も多いですし、開発も活発ですし。ただ、既にブログの方でWordPressを利用しているので、ホームページにもWordPressを利用するのはちょっと面白くないですが。

econ.bstでジャーナル名の短縮表示に対応


econ.bst でジャーナル名の短縮表示に対応しました。対応したのは、cusomizationフォルダに置いてあるecon-abbr.bst、econ-jet.bst、econ-jpe.bst です。

この bst ファイルを利用すると、例えばbibファイル(BibTeXのデータベース)でjournal フィールドに以下のように指定してあった場合

    journal = {American Economic Review}

実際のジャーナル名の表示は "Am. Econ. Rev." になります。他の例は econ-abbr.pdfecon-jet.pdfecon-jpe.pdf を見てください。

どうやって短縮表示にしているのかというと、単純に bst ファイルの中に「ジャーナル名」とその「短縮形」のペアを登録して、ジャーナル名が登録したものにマッチしたら置きかえるというようにしています。300個くらいの雑誌を登録してあるので、その分 bst ファイルのコードがものすごく長くなります。ですので、普通の econ.bst には入れず、econ-abbr.bst、econ-jpe.bst と econ-jet.bst だけで対応しています。短縮形を登録していないジャーナルは変換されないです。登録してあるジャーナルはcustomizationフォルダの中の journal_name.xlsx で見れます。

プログラミングがしやすい biblatex を使って短縮形の対応をするならまだしも、普通の BibTeX (bstファイル)でこんなことをしようと思うのは世界で私くらいだと思います...

国際間の排出量取引の論文のシミュレーションのプログラム


「ここのページ」 で紹介した、国際間の排出量取引を分析した論文で使っているシミュレーションのプログラムを以下のページで公開しました。 関心のある方は見てみてください。

http://shirotakeda.org/en/research/cge-iet.html

プログラムはGAMSで記述されています。ファイルを細かく分けてあるので、少し読みにくいですが、モデル自体はGTAPデータベースに基づく比較的単純な多地域モデルです。

カーボンプライシングと二重の配当についての記事


週刊東洋経済に早稲田大学の有村俊秀先生と「カーボンプライシング(炭素価格政策)」についての記事を書かせてもらいました。以下のページの記事です。

脱炭素社会への切り札、カーボンプライシング
有村 俊秀:早稲田大学政治経済学術院教授 / 武田 史郎:京都産業大学経済学部教授 週刊東洋経済、2019年8月3日号

カーボンプライシングと環境税制改革による二重の配当について書いたものです。


炭素税や排出量取引などのカーボンプライシングでは、政府に新たな収入が生じる場合が多いです。その新たな収入によって、既存の税、例えば、所得税、法人税、消費税等を減税するという政策が考えられます。排出規制とともに、既存の税の減税をおこなうことで、環境の改善(CO2排出量の削減)とともに経済効率の改善が実現することを「二重の配当」という言います。二重の配当について詳しくは、以下の事典の中の私が執筆した「二重の配当」という項目で説明していますので、できればそれを見ていただきたいです。

環境経済・政策学会編(2018)『環境経済・政策学事典』,丸善出版(このページのページで紹介した本)

カーボンプライシングと二重の配当については、昨年、有村俊秀先生、尾沼広基さんと共著で、『環境経済・政策研究』にも論文を書きました。サーベイ(展望)論文です。

有村 俊秀, 武田 史郎, 尾沼 広基(2018)「環境論壇 炭素価格の二重の配当 -環境と経済の同時解決に向けて-」,『環境経済・政策研究』,11巻,2号,p73-78, https://doi.org/10.14927/reeps.11.2_73

この論文は二重の配当仮説についての既存研究についてまとめたサーベイ論文です。二重の配当の考え方自体はかなり前からあるもので、これまでもシミュレーション分析(CGEモデルによる事前的な分析)は数多くおこなわれていましたが、各国で実際に炭素価格政策(炭素税や排出量取引)が導入されるようになり、事後的な実証的な研究(計量経済学的な分析)も増えてきました。この論文はそういった新しい事後的な研究についても紹介しています。

大阪大学名誉教授の伴金美先生


もうかなり時間がたってしまいましたが、大阪大学名誉教授の伴金美先生が2018年12月にお亡くなりになりました。

私は研究において伴先生にいろいろお世話になりました。その縁もあり、環境経済・政策学会のニュースレターで伴先生の追悼文を書かせていただきました。

『環境経済・政策学会 ニュースレターNo.40』,2019年3月31日発行
http://www.seeps.org/pdf/newsletter/SEEPS_NL40.pdf

経済学者でしたら多くの方が伴先生のことはご存じだとは思いますが、私が伴先生に最初にお目にかかった2000年くらいからのことを書いていますので、読んでいただければ幸いです。

国際間の排出量取引についての論文


早稲田大学の有村先生、山形大学の杉野先生と共同で執筆していた国際間の排出量取引についての以下の論文が「Envrionmental and Resource Economics」に掲載されました。

Takeda, Shiro, Arimura, Toshi H. and Sugino, Makoto (2019) "Labor Market Distortions and Welfare-Decreasing International Emissions Trading." Environmental and Resource Economics, DOI: 10.1007/s10640-018-00317-4

オープン・アクセスにしてもらっているので、誰でも読めます(DOIをクリックしてください)。この論文の内容を簡単に紹介したいと思います。

分析の目的

温暖化対策には様々な政策手段がありますが、その中でも「排出量取引」が望ましい政策だと考えられるようになっています。この論文は「国際間の排出量取引(International Emissions Trading、以下IET)の効果を応用一般均衡モデルによるシミュレーションで分析した研究」です。

IETは望ましい政策と言われるのは、以下のようなことを実現すると考えられているからです。

  • 国際間で排出枠を取引することで、世界全体での削減費用を小さくすることができる。
  • 取引に参加する国、全てに利益がもたらされる。

しかし、この議論は排出枠の市場しか考慮していないという問題があります。言い換えると、部分均衡的な分析から導かれた主張です。

排出枠の市場以外の市場、例えば、財の市場、生産要素の市場等も想定し、政策が財や生産要素の市場に与える影響までを考慮した場合、つまり一般均衡モデルで分析した場合には、IETは必ずしも参加国に利益をもたらすとは限らなくなります。これは既に多くの研究によって指摘されていることです。

我々の研究では労動市場に歪みがある状況で、IETが参加国に利益をもたらすかどうかを分析しています。そのために、以下のような4つのモデルで比較をおこなっています。

  • モデル1) 労働市場に歪みがないモデル
  • モデル2) 労動供給が可変で、かつ労動課税が存在するモデル
  • モデル3) 賃金が下がらないモデル(最低賃金が存在するモデル)
  • モデル4) 賃金が下方硬直的なモデル(wage curveモデル)

モデル1では労動供給を外生的に設定し、賃金が伸縮的と仮定しています。モデル2では余暇・労動供給の選択を組込み、かつ労動課税を導入しています。労動課税により、労動供給が過少な水準に抑制されているという歪みが存在します。モデル3と4では賃金に下方硬直性が存在することになるので、その結果(非自発的)失業という歪みが生じます。モデル1とモデル2〜4を比較することで、労動市場の歪みがもたらす効果を分析しています。

分析はCGEモデルによるシミュレーションでおこなっています。モデルにはGTAPデータを基準データにした 8 地域、16部門のグローバル、かつ静学的なCGEモデルを用いています。

分析の主な結果

シミュレーション分析から以下のような結果が出ました。

  1. まず、労動市場に歪みがないモデル(モデル1)ではIETをおこなうことで全ての参加国が利益を得 る
  2. 第二に、労動市場に歪みのあるモデルであっても、排出枠の輸入国になる国はIETに参加することで常に利益を得る
  3. 労動市場に歪みがあるモデルでは、排出枠の輸出国になる国はIETに参加することで損失を得る場合がある。
  4. 特に、最低賃金モデル(モデル3)とWage curveモデル(モデル4)では輸出国がIETへの参加によって損失を被る可能性が高い。
  5. 上の結果はどの国かによっても変わってくる。例えば、ロシアや中国はどちらも排出枠の輸出国になる可能性が高いが、中国がIETから損失を被るケースが多いのに対し、ロシアは損失を被るというケースが非常に少ない。

排出枠の輸出国になる国が損失を被ることになる理由は、ちょっとややこしいので、論文を読んでください。

これまでも様々なケースでIETが必ずしも参加国に利益をもたらすわけではないということは示されていましたが、我々の研究は労動市場に歪みがあるケースでも同様のことが言えるということを明らかにしています。

最初に述べたようにIET(国際間での排出量取引)は参加国に利益をもたらす政策と(少なくとも経済学者には)主張されることが多いのですが、実際にはそう単純ではなく、どのような効果が生じるかを慎重に検討しておこなうべきものだと言えると思います。

CGE分析、特に温暖化対策のCGE分析では非自発的失業を考慮しない、つまり労動市場は常に均衡するという想定で分析をするものがほとんどなのですが、本研究では非自発的失業が存在するモデルも利用しています。CGEモデルとしてもちょっと珍しいモデルを利用しているという点もおもしろいのではないかと個人的には思っています。

jecon.bstの少し重要な変更


以前の「この記事」でBibTeX用のデータベースファイルであるbibファイルでは通常、日本語の文献の場合、英語の文献とは著者名の書き方が違うということを説明しました。具体的には英語文献と日本語文献では著者名の姓名の順序が違うということでした。

しかし、日本語文献であっても、英語文献と同じ順序を使っているbibデータが増えてきました。そこで、jecon.bstではそのようなデータでも正常に扱えるような機能を加えていました。ただし、デフォールトの設定では昔からの記述法を前提としていました。

jecon.bstのversion 5.5より、この設定を変更し、日本語文献でも英語文献と同じ姓名の順序にするというのをデフォールトの設定としました。

昔からの普通のbibファイルを利用したいという人はbst.sei.mei.orderという関数に#0を設定するように自分で修正してください。

これからは、BibTeX 用のデータベースを作成するときには、日本語文献であっても英語文献と同様の著者の書き方をするのが普通のルールとなって欲しいと思います。ただ、そうして作成されたデータベースを jplain.bst などの基本的なbstファイルでは扱えないのですが...

certified random orderによる著者名の並べ方


AER(American Economic Review)という雑誌に掲載された以下の「Ray ⓡ Robson (2018)」という論文の内容についての話です(著者名の区切に「ⓡ」という記号を使っている理由はあとで説明します)。

Ray, Debraj ⓡ Arthur Robson (2018) "Certified Random: A New Order for Coauthorship," American Economic Review, Vol. 108, No. 2, pp. 489–520, DOI: 10.1257/aer.20161492.

論文等を共著で書いたときには、著者名をどういう順番で並べるかを選ぶ必要があります。分野によっても変わってくるかと思いますが、よく使われる方法には、1) 論文の執筆における貢献の大きさ順で並べるという方法、2) アルファベット順で並べるという方法(今は話を英語の論文に限定しています)があると思います。

アルファベット順

論文の執筆の貢献度が著者の間でかなり違う場合には貢献度順が使われることが多いのでしょうが、貢献度が同じような場合にはアルファベット順が多いかもしれません。実際、経済学ではアルファベット順の利用がかなり多いようです。ただ、アルファベット順には大きな欠点があります。それはたまたまアルファベットの若い名前を持つ人を大きく優遇することになるという点です。

実際にどれくらい優遇することになるかはRay ⓡ Robson (2018)でも説明されています。Ray ⓡ Robson (2018)では以下の論文が紹介されています。

Einav, Liran, and Leeat Yariv. (2006) "What's in a Surname? The Effects of Surname Initials on Academic Success." Journal of Economic Perspectives, 20 (1), pp.175–88, DOI: 10.1257/089533006776526085.

このEinav and Yariv (2006)は、米国のトップ35の経済学部の教員を対象に、名前と業績の関係について調査、分析したものだそうです。分析の結果、若いアルファベットの姓を持つ教員ほどトップ10の経済学部におけるテニュアを得る可能性が優位に高く、クラークメダルとノーベル賞を受賞する確率も高いということがわかったそうです(これは、出身国、人種、宗教、学部等の要素をコントロールした上で導かれた結果です)。他にも証拠となるようなデータがあるようです(詳しくはRay ⓡ Robson (2018)を見てください)。

[注]ただし、上記の研究に反論するような研究もあります。例えば、以下 の論文は、アルファベット順による第一著者優遇の効果は従来言われているほどには大き くはないという結果を導いています。

Ong, D., Chan, H. F., Torgler, B., and Yang, Y. (2018). "Collaboration incentives: Endogenous selection into single and coauthorships by surname initial in economics and management." Journal of Economic Behavior and Organization, 147, pp.41–57. 10.1016/j.jebo.2018.01.001

ランダム順

アルファベット順では名前によって有利、不利が生じてしまうということなので、それではランダムに順番を決めてやればいいのではとなります。例えば、Abeさん、koizumiさんという2人がよく共同論文を書いていて、論文を書くたびにサイコロを振って著者名の順序を決めたとすると、Abeさんが特に優遇されるというようなことはなくなりそうです。

しかし、ランダムな並べ方には一つ問題があります。それは、仮にランダムに決めた結果として「Koizumi and Abe」という順番になったときでも、それをKoizumiさんが論文の執筆において大きい貢献をしたために第一著者になっているとみなしてしまう人が出てくるという点です。そうなると逆にKoizumiさんを優遇することになってしまいそうです。

最初に述べたように、並べ方としては貢献順という方法もよく使われています。著者自身はランダムに並べた結果「Koizumi and Abe」としている場合であっても、第三者からはそれがランダム順なのか、貢献順なのかが判断できません。

Certified random order(保証されたランダム順)

以上のように単純なランダム順では問題があるということで、Ray ⓡ Robson (2018)で提案されているのが「certified random order」というランダム順です。単純なランダムと何が違うかというと、ランダムで著者順を決めているということがわかるように特別な記号(区切)を利用するということです。上の例で言えば、「Koizumi and Abe」ではなく、「Koizumi ⓡ Abe」というように表現するということです。

単に「Koizumi and Abe」なら、Koizumiさんが貢献度が大きいのかと思う人がでてきますが、「Koizumi ⓡ Abe」のようにこれは「ランダム順」ということを示す記号を用いれば、貢献順と誤解されることはなくなり、本当の意味でのランダム順ということを明示することができます。

「論文の著者が保証(certify)したランダム(これはランダムに決めた並び順と著者によって保証されている)」ということで「certified random order」という呼び方を使っているようです。ランダムということを表す記号としてはどういうものでもよいようですのですが、Ray ⓡ Robson (2018)では「®」を使っています。ただ、これは既に商標のマークとして使われていますので、Ray は代わりに「ⓡ」を提案しています。そのため、この文章でも「ⓡ」を使っています。ただし、ⓡを使うべきといういわけではなく、別のものでもよいと思います(できるだけ統一していた方がわかりやすいですが)。とりあえず考え方を説明するだけでしたら、「and」で区切るのでなければ何でもいいかと思います。

「certified random order」という方法はいろいろ良い性質を持つようです。それをRay ⓡ Robson (2018)で長々と証明をしています(私にはよくわからないので、詳しくは論文を見てください)。

一つ誤解を招きやすい点ですが、randomに並べるというのは、引用するたびにランダムに著者名を並べ替えるということではないです。元々、著者達が決めた並び順で常に引用するのですが、その元の並び順を著者は(貢献順等ではなく)ランダムな方法で決めましたよということです。一度、著者が決めた並び順は固定されます。

certified random orderの実装

なぜ certified random order の話をしたのかというと、certified random orderをBibTeX で実現できないかと Raraj Ray と Martin Osborneに聞かれたからです(Raraj Rayは上記の論文の著者であり、Martin Osborneは有名なゲーム理論のテキストの著者ですね)。それほど難しいことではなかったので、https://github.com/ShiroTakeda/econ-bstというページで開発している econ.bst というBibTeXのスタイルファイルで certified random orderを使えるようにしました。

Certified random orderを使う方法ですが(詳しくはecon.bstのマニュアルを読んでもらいたいのですが)、データベース(bibファイル)でcertified random orderを使っていることを指定するという方法にしています。具体的には、certified random orderを利用している文献については、「nameorder」というフィールドに「random」という値を 設定するという方法をとっています。例えば、以下のような指定をします。

@techreport{NBERw25205,
  title        = {Electoral Systems and Inequalities in Government
                  Interventions},
  author       = {Garance Genicot and Laurent Bouton and Micael Castanheira},
  institution  = {National Bureau of Economic Research},
  type         = {Working Paper},
  series       = {Working Paper Series},
  number       = 25205,
  year         = 2018,
  month        = {October},
  doi          = {10.3386/w25205},
  URL          = {http://www.nber.org/papers/w25205},
  nameorder    = {random}
}

このように指定された文献を引用すると、参考文献部分で

Genicot, Garance ⓡ Laurent Bouton ⓡ Micael Castanheira (2018) "Electoral Systems and In- equalities in Government Interventions," Working Paper 25205, National Bureau of Economic Research, URL: http://www.nber.org/papers/w25205, DOI: 10.3386/w25205.

というような表記になり、さらに引用部分では「Genicot ⓡ Bouton ⓡ Castanheira (2018)」、あるいは「Genicot ⓡ al.(2018)」という形になります。後者のような省略形の場合、「et」の代わりに「ⓡ」を使っています(etはラテン語でandの意味なので)。「author」フィールドの指定は通常の方法と変わりません。

certified random orderの今後

このcertified random orderという表記の方法が今後普及するかどうかはわかりません。ただ、普及させるには文献データベース側での対応が必要になると思います。具体的には、文献のデータベース側でその論文の著者名の並び方がcertified random orderなのかどうかを示す情報を持つようにしないといけないと思います。例えば、私がecon.bstで実装したように、bibファイルにおいてnameorderというフィールドにrandomという値を持たせるというようにです。

現在、ネット(例えば、Google scholarやIDEAS)などでBibTeX形式の文献情報を得ることができますが、それらのデータベースの論文においてcertified random orderが使われているのかどうかという情報は含まれていません。例えば、「これ」はGoogle Scholarから取得できる「Ray ⓡ Robson (2018)」のBibTeX形式の文献情報ですが、certified random orderを使っているという情報は全く含まれていません。情報がなければ引用する際にcertified random orderの表記を使うべきかどうかもそもそもわかりません。まずは引用する側がその文献がcertified random orderを使っているかを簡単に判断できるようにデータベース側が対応する必要があると思います。

以上、certified random orderについて説明しましたが、普段、アルファベット順で著者名を並べているという人、その中でも特に姓のアルファベットが後ろの方なのでいつも第一著者にはなれていないという人は「certified random order」を使うように共著者に提案してみるといいかもしれません。有名な研究者が使うようになれば、多くの人が使うようになるかもしれないですね。私自身はたぶん使う機会がなさそうです...というのは、私は元々アルファベット順で著者名を並べることがほとんどないもので。