早稲田大学の清野一治先生


早稲田大学政治経済学術院の清野一治先生が先月末にお亡くなりになりました。国際貿易理論、産業組織論を中心に経済学の様々な分野で業績を残された方です。57年生まれですので、まだ51 歳でした。

私は清野先生に本当にお世話になりました。

現在、温暖化対策のCGE分析をやっている私がなぜ清野先生と関わりがあるのかと言えば、早稲田大学経済学研究科の修士課程にいたときの指導教官が清野先生だったからです。

私が修士課程に入学したのは96年ですから、もう13年も前になりますが、当時の経済学研究科は入学時に指導教官を指定するようになっていました。私は国際貿易の分野になんとなく興味があったので、国際貿易理論の担当だった清野先生を指導教官として申し込みました。名前は既に学部のときに聞いたことがありましたが、清野先生の授業を受講していませんでしたし、直接の面識もなかったので、どんな先生かもよく知りませんでした。

筆記試験に通った後、面接を受けに行き、その時初めて清野先生に会いました。筆記試験の出来がよくなく、そもそも学部時代にまともに経済学を勉強していないので、たぶん落とされるだろうと思っていました。ところが、面接室に行くと、清野先生が一人だけいて、開口一番「入りたければ、入ってもいいよ」と言われました。

その頃、清野先生はまだ教授になったばかりで、大学院の講義をするようになってまだ一年か二年しかたっていなかったので、大学院のゼミ生は一人しか受けもっていなかったと思います。また、その一人の先輩の方はほとんど大学院に来ていなかったので、実質的には大学院生として清野先生がとった学生は私が初めてだったようです。たぶん一人くらいなら多少出来が悪くてもなんとかなるだろうと軽く考えていたんじゃないかと思います。そんなわけで、あっさり入学を許可されました。面接の際、当時、出版されたばかりのMas-Colell, Winston and Green の Microeconomics を4月の入学までに勉強しておけと言われました。結局、自分で読んでも全然わからず挫折しましたが。

入学後、直接指導を受けるようになりましたが、清野先生の授業・講義を受けている学生の数は少なかったです。院のゼミ生の私、もう一人別のゼミの院生の方、学部の清野ゼミの学生一人の計3人だけだったと思います。その後、清野ゼミに後輩が何人か入ってきて多少増えましたが、私がいる間は多いときでせいぜい5、6人程度だったと思います。

少人数ですので、基本的にはテキスト、論文を院生が読んできてそれを発表・説明するというような形式でした。入学した当初はまともに経済学を勉強したこともなかった私ですが、人数が少なかったこともあり、ほとんどつきっきりのような形で指導していただいたおかげでなんとか経済学がわかるようになってきました。言ってみれば、清野先生に経済学の基礎を一から教えていただいたようなものです。

たまに清野先生が講義する形をとるときもあったのですが、そのときには何も見ずにものすごいスピードで数式、グラフを黒板に板書をしていくので、ノートをとるのに精一杯だったことを今でも憶えています。

輪読、発表、講義のどんな形でも、清野先生の授業は受けていて本当に楽しい授業でした。大学院に入る前でも経済学はおもしろいなあと漠然に考えてはいましたが、清野先生の授業を受けて、ますます経済学が好きになりました。

国際経済学の授業では、初めに伝統的な一般均衡の貿易モデルを勉強し、その後新貿易理論をやりました。テキストとしては、

  • Pascal Sgro の Theory of Duality and International Trade.
  • Dixit & Norman の Theory of International Trade: A Dual, General Equilibrium Approach.
  • 小田正雄先生の「現代国際経済学」

等を使っていました。

現在、私は国際貿易理論とは違うことを研究しているのですが、当時勉強した一般均衡理論・モデルは今でも本当に役に立っています。あの頃、一般均衡モデルの基礎をみっちり勉強することができて本当によかったと思います。

今、私は自分の専門分野に関わるようなことしかほとんど関心がない (というか、関心を持つ余裕がない) のですが、清野先生は自分の専門分野以外のことでも、幅広く勉強しておられました。あんまりにいろいろな分野に詳しいので、院生はよく「清野先生は経済学のマニアだ」というような陰口を言ってました。実際に「先生はマニアですね」と言ってみたら、すごく怒られましたが...直接自分の研究に役に立つかどうかは別として、純粋に経済学という学問とその研究が好きだったのだと思います。また、その幅広い知識・見識を基に、学生に対して多くの貴重なアドバイスをしてくれました。大学院に入るまで不勉強で経済学の素人同然だった私がまがりなりにも経済学者になれたのは、最初に清野先生に教えていただいたからだと思います。

研究以外のことでは、私も先生もパソコン好きだったので、パソコンのソフトのことなどをよく話しました。清野先生は Mac が大好きで、よく Windowsの文句を言ってました。結局私は清野先生のような Mac 使いにはならなかったのですが、TeX や Emacs なんかを使っているのは、もとはと言えば清野先生に勧められたからです。

早稲田の修士課程を修了した後は清野先生の勧めもあって一橋大学の大学院の博士課程に編入しました。一橋に移った後も、学会やセミナー等で会うことがよくあったのですが、最近私がCGE分析を使った研究に専念し、国際貿易理論の研究をしていなかったこともあり、ここ2、3年清野先生と会う機会がありませんでした。でも、いつでも会えると思っていましたし、会ってまた経済学の話を聞きたいと思っていました。それにいつか国際貿易の分野で一度くらいは先生と共同で研究をしてみたいとも思っていました。それももうできなくなり本当に残念です。ほんの少しでも恩返しらしきことができていたらと思うのですが、結局何もできなかったことが悔まれます。今はただご冥福をお祈りするだけです。



Similar Posts:

Leave a Reply

スパム防止用認証(空欄に適切な数値を記入してください)。 * Time limit is exhausted. Please reload the CAPTCHA.

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)